森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

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書評 『極限の科学』『宇宙から恐怖がやってくる!』『気候文明史』『ニワトリ』

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「日経サイエンス」2010年6月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載

 極限は人を惹き付ける。極限の科学は、低温、高圧、強磁場の極限条件を追求した科学の歩みを描いた本だ。

 超低温下では全原子がそろって動き始める超流動や超伝導が起きる。超高圧下では1000度を超える熱い氷が存在する。強磁場下では半導体も金属化して電気を通す。極限で物質は本性をあらわにする。極限を実現するための研究者たちによる努力と思考の歴史も面白い。懐かしさすら感じるようなオーソドックスな一般科学書である。

 最終章では白色矮星や中性子星など宇宙における極限物性が紹介されている。超高圧によって原子の軌道が破壊され、ついには電子までもが原子核内へと消えていく世界だ。人類はまだ実証できていない。だが確かに実在している。科学は、それを論理的に、理解させてくれる力がある。

極限の科学 (ブルーバックス)
伊達 宗行
講談社
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 宇宙の話はともかくスケールが大きい。圧倒的だ。宇宙から恐怖がやってくる!を読んでも良くわかる。この本の主題は地球滅亡である。小惑星が降って来たり、超新星爆発やガンマ線バーストに曝されたり、エイリアン襲来やブラックホール接近が起きたらどうなるのか。SFパニック映画でお馴染みの状況を9つ取り上げて、その実は宇宙の姿を紹介していく本である。最後は、銀河系内での太陽系の運動と大量絶滅の関係や、宇宙そのものの死にまで話題は及ぶ。

 なにしろ母なる太陽一つとっても、本当のところは日常感覚では理解しかねる膨大なエネルギーを、これまた膨大な質量が押さえ込んだ恒星なのだ。

宇宙から恐怖がやってくる! ~地球滅亡9つのシナリオ
フィリップ ・ プレイト
日本放送出版協会
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 太陽からすればちょっとした変動が地球上の生命、そして文明にとっては大きな影響となる。気候文明史は八万年前から現代に至るまでの気候変動と人類の歴史の関係を描いた本だ。農耕開始や古代文明誕生と滅亡、民族移動や国家の再構築など、様々な世界史上のイベントが気候変動をカギとして読み解かれていく。寒くなろうが暖かくなろうが、その変化が急激であれば文明にとっては大きな影響があった。

 仮説も多いが、実に多様な資料や研究成果が引用されており、読み応えがある一冊である。細かな文化的な現象の紹介も本に深みを与えている。

 17世紀、寒冷な時代には世界中で大飢饉が発生した。いっぽう技術革新による農業革命や、新大陸からもたらされたジャガイモなどの作物栽培も同時期に本格的に始まる。それが人々を救い、今日の食生活にも繋がっている。気候変動や人口の増減、人間の活動は他の動植物にも影響を与える。

気候文明史
気候文明史
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田家 康
日本経済新聞出版社
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 一度、人間の生活に深く食い込んだ動植物は、遺伝子解析だけでは辿れない複雑な関係を人間と結ぶ。ニワトリを読むとそれが実感できる。日本に3億羽いて、毎年200万トンも消費されている鶏肉。その元となっているニワトリの原種セキショクヤケイをインドシナに訪ね、家畜化された各品種のニワトリたちの姿を描き、人間との関係を様々な視点から考える本である。

 ニワトリは鳥の一種だが、合理的生産性を突き詰めた畜産物でもある。食肉用の若鶏を指すブロイラーという考え方が戦後登場し、養鶏にはニワトリを卵用と肉用に分けるという大変化が起きた。だがこれはごく最近の出来事に過ぎない。原種は飼育は難しい鳥だという。それが食用だけではなく闘鶏や愛玩用としても飼育されるようになったのはなぜなのか。人間の執着心や色んなものが垣間見える一冊である。

ニワトリ 愛を独り占めにした鳥 (光文社新書)
遠藤秀紀
光文社
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)

Written by 森山和道

1月 27th, 2011 at 12:05 pm

書評 『音のイリュージョン』『粘菌』『日本近海に大鉱床が眠る』『土の文明史』

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「日経サイエンス」2010年7月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載

 音のイリュージョンは聴覚の情報処理の本だ。ガヤガヤうるさい所でも人と話ができるのは、音素修復と呼ばれる知覚の補完が行われるからだ。声に限らず、連続した音の一部を雑音で隠しても、連続した音である可能性が高いと脳が見なした場合は、音は補完される。連続聴効果という。

 面白いことに、滑らかに上昇する音と上がった後に下降する音をそれぞれ真ん中で雑音でマスクしても、両者とも問題なく聞こえる。雑音前の音は同じなのに、あたかも雑音後の音の変化を予測したような知覚補完が起きるのだ。実際には知覚は現実からは遅れているのだが、それを我々は自覚できないのだと考えられる。

 知覚は単純な物理的な測定器ではない。知覚は周囲の時空間で何が起きているのかを把握するために存在する。音は単なる空気の振動ではない。脳のなかで生成されている。

 知覚をはじめ脳のほとんどの情報処理は意識されないが、神経細胞のネットワークで生み出されている。普通、細胞は目に見えないが、粘菌は単細胞だが数センチに巨大化して動き回れる。粘菌は、単細胞生物にも知性、情報処理能力があるとし、細胞の原形質流動、身体運動そのものが情報処理を担っているのではないかと述べている。生物を素材にしたネットワーク科学の本でもある。

 情報処理とは何かという定義の問題もあり、肝心の粘菌の知性については今ひとつ飲み込めないところもあった。だが、粘菌がどんな餌が好きかといった研究の細かい苦労話や、まだ練りきられていない考え方もそのまま書かれていて、面白い。確かに、細胞運動そのものが原始的知性であることは確かなのだろう。

粘菌 その驚くべき知性 (PHPサイエンス・ワールド新書)
中垣 俊之
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 日本近海に大鉱床が眠るはタイトルだけだと内容を誤解する。前半2/3はもっぱら基礎科学としての海底熱水鉱床発見物語だ。読者は、そんなことあり得ないと思われていた海洋底拡大の発見から、「しんかい2000」を使った実際の海底熱水鉱床の発見に至るまでの物語を、研究者自身による描写で読むことができる。

 これだけでも本書は稀有な一冊と言えるのだが、さらに後半は資源としての海底熱水鉱床の可能性を巡る各国の動向へと続く。日本の排他的経済水域の海底にはレアメタル資源が眠っているのだ。ただ御存知のとおり熱水鉱床は光合成に寄らない特異な生態系が生きる場所でもあり、それを破壊するわけにはいかない。よって掘削資源としては既に活動をやめた熱水活動跡が狙い目になる。既に利潤を求めて動いている企業もあり、研究者たちも否応なく資源開発の流れのなかで立ち位置を求められることになる。地質学的な知識がないと読むには苦労する本かもしれないが、今後、日本が進めるべき海底鉱床学の方向性も含めて非常に面白く、必読の一冊と言える。

 資源が生成されるよりも速く消費されている限り、いかなる形であれ、奪い合いになる。国の資源は、鉱物だけではない。土の文明史は、土壌に注目して文明の衰退を見た本である。イースター島が環境破壊で滅んだ話は有名だ。土壌を保全することの重要性は既に理解されている。だが今でも年間推定240億トンの表土が失われている。土壌は生物によって生み出される貴重な資源なのである。だが鋤の発明によって斜面の耕作が始まって状況は一気に悪化した。人間の知性は環境をようやく理解しはじめた。いま少しの猶予を自然が許容してくれればいいのだが。

土の文明史
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)

Written by 森山和道

1月 18th, 2011 at 12:02 pm

書評 『不運の方程式』『超高層ビルのしくみ』『数字で世界を操る巨人たち』『質量はどのように生まれるのか』

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「日経サイエンス」2010年8月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載

 科学ネタはどこにでもある。不運の方程式はツイてないサラリーマンの一日を題材に、38の雑学を展開する本だ。電子レンジを爆発させ、鳥のフンを浴び、鞄を忘れ、ガムを踏んづけ、靴を壊し、会議に遅刻し、コンピュータ・ウイルスをまき散らしたり風呂場で滑ったりと、とにかく散々な目に会う主人公の一日の出来事を枕にして、様々な蘊蓄が語られる。

 身近な出来事を科学の見方と知識で深堀りする、言ってしまえば雑学本なのだが内容は意外と深い。またテキストが軽快かつユーモラスなので、一気に楽しく読めた。著者は常に「どうしてそうなったんだろう」と考えることを読者に勧めている。あるいは本書を通じていわゆる理系の思考の癖を覗いてみることもできるかもしれない。

不運の方程式―あなたの「ついてない!」を科学する
ピーター・J. ベントリー
新潮社
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 いま東京では「東京スカイツリー」が建設中だが、何度見ても、高層建築の上で作業するクレーンはどうやって持ち上げて下ろすのかと不思議に思う。超高層ビルのしくみのような本で解説を読み、理屈が頭で分かったあとも、その疑問は消えない。

 この本は超高層オフィスやマンションの建築に関する最新技術が詰め込まれた本である。建造や建材、インフラ設備の詳細だけではなくメンテナンスや廃棄などについても紹介されている。

 延べ床面積10万平方メートルのオフィスビルでは一日あたり約4万kwh、一般家庭4000世帯分もの電力が消費されるという。風圧に耐える特殊ガラスに覆われた超高層ビルは、縦に伸びた一つの街なのだ。それがくまなく紹介されているのだから、面白くないわけがない。揺れや空調などにおいて異なる性能が求められるマンションとオフィスビルの違いも面白かった。

図解・超高層ビルのしくみ (ブルーバックス)
講談社
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 高層ビルに入る時にはカードをかざさなければならないところが増えた。ピッと音がするたびにそれがデータになる。監視カメラもこちらを見ている。仕事中ならネット上のログも集められているだろう。我々の行動がデータとして収集され、数学の力で情報となり、業務効率化、顧客の購買意欲促進、選挙、テロ対策、医療、恋人探しに使われるようになっている。これが数字で世界を操る巨人たちの内容である。莫大なデータを集めることで、人間の行動にパターンを見出し予測できるようになりつつある。数学的手法の詳細は端折られているので物足りない部分もあるが、いま何が起きているのかは知っておいたほうがいい。

数字で世界を操る巨人たち
スティーヴン ベイカー
武田ランダムハウスジャパン
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 いややっぱりちゃんと説明してる本のほうが面白いという読者には質量はどのように生まれるのかを挙げる。質量はグルーオン場のゆらぎを背景としてクオークと反クオークの対が生成消滅している量子色力学的な真空において、右巻き粒子と左巻き粒子とを区別するカイラル対称性が自発的に破れることで生まれるのだという。

 これだけだと意味が全く分からないだろう。だがこの本は、この話を誰でも理解できるように丁寧に解説してくれている。研究者たちが論理をどのように組み上げて今のところに立っているのか、そして最終的にいまどんな疑問を持って、何をしようとしているのかを分かりやすく解説してくれている。広くおすすめできる本である。

 ただしこの「分かりやすさ」とは、一言二言で説明できる分かりやすさではない。頭から最後まで読み、順に追って行けば誰でも理解できるという意味での分かりやすさだ。こういう分かりやすさこそが本当の科学本の面白さなのだと思う。

質量はどのように生まれるのか (ブルーバックス)
橋本 省二
講談社
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)

Written by 森山和道

12月 24th, 2010 at 12:06 pm

書評 『世界の野菜を旅する』『土の科学』『大気を変える錬金術』『光るクラゲ』

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日経サイエンス 2010年 09月号 [雑誌]
日本経済新聞出版社 (2010-07-24)

「日経サイエンス」2010年9月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載

 中東の山岳地帯が原産と考えられるタマネギ、インド北部原産のナス、アメリカ大陸原産のトマトやジャガイモ、トウモロコシなど、野菜の原産地を訪ねた旅行記世界の野菜を旅するは実に楽しい一冊である。

 どのページも野菜に関する蘊蓄が満載で、しかも嫌味なところがない。ポルトガルではイワシの塩焼きにキャベツの味噌汁に似たスープを飲めるとか、ペルーでも日本と同じく生の魚介を食べるといった、世界各国の食文化の話題も楽しい。ともかく楽しい本なのだ。毎日食べているのに野菜について全く知らないことに気づかせてくれる本だった。

世界の野菜を旅する (講談社現代新書)
玉村 豊男
講談社
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 人類の農耕開始以来、数千年の歴史を持つ野菜は、人と共生しながら、それぞれの土地の気候や地質に合わせて姿を少しずつ変えて来た。作物の基本は日光と水、そして土だ。植物は土中の空隙にイオンとなって溶け込んだ元素を吸収し、人に分け与える。そして人は経験的にどのような土が豊かな植物を育てるか知っていた。『世界の野菜を旅する』『土の科学』などを合わせて読むと、先人たちの経験的な知恵は大したものだと感じる。

 土の科学は土壌とはそもそもどんなものなのか、どうやってできるかなどを解説した本である。土は外的環境が変わっても簡単には変化しない。本書では「緩衝能」と呼ぶ安定性が生態系全体を支えてきた。だがそれも表土が削られると失われてしまう。環境保全まで考えた農業が始まったのは、つい最近のことである。

土の科学 (PHPサイエンス・ワールド新書)
久馬 一剛
PHP研究所
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 先人たちの知恵は大したものだと述べたが、その知恵は集団が経験的に持っているものに過ぎず、哀しいかな、個々の人間が賢いわけではない。鳥の糞からなるグアノが肥料として優秀であることに気づいた19世紀の人々は、何千年もかけて蓄積されたグアノをわずか20年で採掘し尽くしてしまった。人の知恵はその程度だ。

 いっぽう、大気中の窒素を固定するハーバー・ボッシュ法は、貴重な肥料の化学合成を実現した。大気の安定な窒素を固定する技術は同時に火薬にも使われ、戦争の長期継続をも可能にした。大気を変える錬金術は、この二人の化学者と技術者の物語である。栄光に満ちた、だが、あまりに哀しい物語だ。

 多くの研究者の絶えざる努力と成功、第一次大戦の毒ガス製造やナチスの台頭など、ハーバーとボッシュの話を知っている読者は多いと思う。たった一つの反応が巨大産業を生み出し、世界を根本的に変えてしまう化学の力については言うまでもない。

 だが自分の生き方や誇りそのものに裏切られたハーバーの思いや、直径90mに及ぶクレーターができるほどの工場爆発後のボッシュの苦悩、窒素固定の成功体験の持つ魔力の深さについてはどうだろうか。著者はあくまでハーバーとボッシュ側に寄って立ちながら、科学と人間の持つ業を、歴史を淡々と追うことで浮き彫りにする。

大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀
トーマス・ヘイガー
みすず書房
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 ある人は自然の本質を探り、別の人は実用を探索する。多くの研究者たちの連続した努力が大きな成果を生む。緑色蛍光タンパク質(GFP)の開発を追った光るクラゲの物語もその一つだ。下村氏がノーベル賞を受賞したことで一般の人にも広く知られることになったが、背景には受賞者3人以外にも多くの人がいる。本書はそれを適度な深さで解説してくれる良書だ。

 訳者あとがきによればGFPのDNAを提供した研究者は、今は失業し送迎バスの運転手をしているという。これまた別の意味でショックだった。

光るクラゲ 蛍光タンパク質開発物語
ヴィンセント・ピエリボン デヴィッド・F・グルーバー
青土社
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)

Written by 森山和道

12月 18th, 2010 at 12:38 am

書評 『生活家電入門』『数覚とは何か?』『音楽嗜好症』『飢えたピラニアと泳いでみた』

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日経サイエンス 2010年 10月号 [雑誌]
日本経済新聞出版社 (2010-08-25)

「日経サイエンス」2010年10月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載

 今年は酷暑だった。今やエアコンや冷蔵庫がない生活など考えられない。だがついこの間まで、家電どころかコンセントすら家庭にはなかった。『生活家電入門』は生活に不可逆な変化をもたらしてきた家電を一つ一つ取り上げ発展史を追った本だ。白熱電球に始まり扇風機や食器洗い機、洗濯機、炊飯器、IHヒーターなどなど、日々世話になっているものの由来をあまり知らない家電の歴史が紐解かれる。

 人は何にでもすぐ馴れてしまうが、これらの家電は人間が生み出す前にはこの世に存在しなかった。良くも悪くも、まさに革新である。これからの技術者は、生活への革新をどれだけ起こせるだろうか。是非夢を描いて欲しい。

生活家電入門―発展の歴史としくみ
大西 正幸
技報堂出版
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 工学にせよ理学にせよ背景には数学があり、数がある。なぜ人間は数を理解できるのか。そもそも人間にとって数とはどんな概念なのか。『数覚とは何か?』は、心理学な実験や症例などから、人間の持つ「数覚」、すなわち「数の感覚」の不思議を掘り下げて考察した一冊である。

 本書によれば人間は1、2、3まではほぼ正確な概念を持っているが、そこから先は要するに「たくさん」だと捉えているらしい。さらに数が多くなればなるほど差には鈍感になる。そして、数を量と結びつけずに考えることは非常に難しいようだ。否応なく量と結びついてしまうのである。計算の手順にも一定のパターンがある。

 つまり脳は、計算機のように純粋に論理的情報処理で数を扱っているのではない。もともと時間や空間を知覚し理解する能力の延長上に数の感覚も存在しており、生まれつき強力な制約を受けているのだという。数覚は特定領域に局在しているのではなく、あちこちに分散している機能モジュールのネットワークによって生みだされているらしい。人が本能的に持っている数の捉え方の概念は教育にも影響する。

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み
スタニスラス ドゥアンヌ
早川書房
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 数覚がもともと生存に必要な知覚のすぐ延長上にあるとすれば、数学の能力と空間把握能力の間には相関があることも納得できる。この本のなかでも何度かオリヴァー・サックスの著作が言及されているが、サックスの『音楽嗜好症』には、音楽を聴くと壮大な建築物を思い描く人の話が登場する。床や窓、屋根、地下室に至るまでありありと内部空間が知覚されるのだという。

 本書では落雷によって突然音楽の才能に目覚めてしまった人や、音楽を聴くと発作に襲われる人、逆に音楽に向かい合っているときだけ自分自身を取り戻すことができる人たちなど音楽にまつわる多様な症例が紹介されている。

 頭のなかで突然、音楽の一節がループし続ける体験は誰もがしているだろう。なぜ我々の生活は音楽に満ちあふれているのか。人はなぜ音楽に感応するのか。リズムや運動、他者との強調能力などとの関連などが議論されているが、真相は未解明だ。ともかく人間の脳と音楽との間には、深い部分で分かちがたい何かがあるらしい。最後は、認知症においても音楽に関する神経回路はかなり耐性があることが述べられている。

音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々
オリヴァー サックス
早川書房
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 絶対音感を持つ昆虫学者は虫の羽音を聴き分けることができるそうだ。ライターによる野生動物に関するエッセイ集『飢えたピラニアと泳いでみた』の著者も、虫の羽音は多数聴いてきたに違いない。シロアリやミツバチや顔ダニ、亀やヒョウやクラゲなど様々な野生動物の生態が23のコラムで紹介されている。ひどい目にあいながらも取材をやめられない気持ちはちょっと分かる。

飢えたピラニアと泳いでみた へんであぶない生きもの紀行
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Written by 森山和道

12月 15th, 2010 at 12:10 pm