森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評 『性器の進化論』『人はなぜSEXをするのか?』『コンドームの歴史』『人間らしさとはなにか?』

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「日経サイエンス」2010年5月号「森山和道の読書日記」掲載

 詩的な表現を使えば恋や愛、ざっくりいえば繁殖活動や生殖行為、すなわち性行動は個々人にとっても、動物としてのヒト全体にとっても意義深い。だが未解明のことがらが多い。

 性器の進化論は恋愛中の脳内物質の変化や活動をいくら調べたところで愛を理解することはできないという。そして、性現象のなかで具体的に捉えやすく他の動物との比較も容易なのは生殖器、性生理、性行動の道筋だとして、ヒトの「性複合体」の進化を追った本である。

 なるほど確かに、ちゃんと探れるところから探っていくこのアプローチは科学的だ。読んでいても安心感がある。一方、この分野に興味がある読者には目新しい話がやや少ない点が残念ではあったが、著者は最後に、ヒトのメスは受精後に生殖管のなかで、胎児に対して何らかのメカニズムで淘汰をかけているのではないかと論じている。これは実に興味深い可能性だ。

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 読書していて面白いのは人はなぜSEXをするのか?のほうかもしれない。セックスに関する人の外見や生理の不思議や、文化的な話題や最近の脳科学や薬理学そのほかの研究トピックスまでが、実に幅広く、そしてバランス良く書かれている。どんな物知りの読者でも「ねえねえ知ってる?」と他人に披露したくなる新トピックスが見つかるだろう。筆者としては両方合わせて読むことをおすすめしたい。

人はなぜSEXをするのか?―進化のための遺伝子の最新研究
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 人前では背表紙を広げて読みにくい本が続くがコンドームの歴史は、まさにそんな、隠語で呼ばれ続けて来た道具コンドームに関する本だ。人はなぜSEXをするのか?にも出てくる話なのだがエジプト人はワニの糞と蜂蜜を混ぜて女性の膣に入れて妊娠を防いでいたという。紀元前1850年のパピルスに書かれているのだそうだ。そしてコンドームも、ゴムが使われるよりもずっと前からあった。多くは動物の腸だったようだが、中には戦争相手の兵士の筋肉を使ったものまであったそうだ。

 これは要するに、コンドームを一つの象徴として、生殖のコントロールと性病、そして文明の発展の歴史を追った本だ。といっても本そのものは堅苦しいわけではない。むしろ気楽に読むタイプの本である。だが読了後ふりかえって考えてみると、人間という存在の、性に対する複雑な社会的態度の変化に思いを馳せずにはいられない。

 ヒトは生殖活動を自らコントロールすることに多大なエネルギーを使ってきた。それもまた、人間という動物の特徴なのだろうか。

コンドームの歴史
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 人は動物でもあり、特別な存在でもある。分離脳の研究で有名なガザニガの人間らしさとはなにか?はヒトのヒトらしさについて、脳科学の観点から論じ、未来を展望した本である。

 一言で脳科学といっても広い。だがこの本は、よくこんなに広くフォローしたなと感心するくらい、本当に色々な話題を詰め込んでいる。細かい話は主に参考文献リストに任せられているため、本文は至って軽い調子で読める。著者のジョークも多い。だが言語や社会行動、倫理や道徳、共感、芸術の神経基盤、心や意識の問題など人間の本質について、そして人類の未来に関わる人工知能や遺伝子操作の可能性など、それぞれの話題に関して突っ込んだ議論が展開されている。各話題は互いに相補的で、読後、間違いなく新たな視点を得られると思う。何より、自分でもこの本を出発点としてより深く考えたくなるだろう。おすすめだ。

人間らしさとはなにか?―人間のユニークさを明かす科学の最前線
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)

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Written by 森山和道

2月 4th, 2011 at 12:00 pm