森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

九州工業大学大学院 生命体工学研究科 訪問(5)柴田研編

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柴田智広教授

(4)和田研、田向研、我妻研編 から続く。

柴田智広教授は2014年から九工大人間知能システム工学に着任している。もともと福岡県大野城市のご出身とのことなので、そういうこともあったのだろうか。もともとは「視覚移動ロボティクス」を研究していて、知能ロボティクスから計算論的神経科学へ入っている。JST ERATO「川人学習動体脳プロジェクト」、CREST「脳を創る」でATRを経て、NAIST准教授、そして九工大教授というご経歴である。

「人間や社会を学習・適応するシステムとして理学的に理解すること」
「その理解に基づいた支援システムを工学的に実現し社会に還元すること」

の二つが目標であり、研究手法の特徴だという。

僕はいつお会いしたのかまったく覚えてないのだが、以前、先生がNAISTにいた時代に、NAIST広報の仕事で何度か呼んでいただいたことがある。たぶん、僕が「Robot Watch(休刊)」などに書いていた原稿を通して、ロボットのみならず神経科学、特に構成論的理解や計算論的神経科学、あるいは神経経済学などについても興味があるということが柴田先生の目に留まったのだろう、と思う。この領域で原稿を書いているライターは今でもあまり多くない。数人くらいだろうか。

さて、NAIST時代から柴田先生がやっていた仕事で、九工大に移ってからも続けている仕事の一つに、双腕ロボットを使った衣服の脱ぎ着がある。着衣介助ロボットだ。今はリシンクの「バクスター」を使っている。ニシャンス・コガンティ氏と執筆した着衣介助の論文はIROSでアプリケーション部門で最優秀に選ばれている(西日本新聞「着衣支援ロボ論文が「世界一」に 九工大大学院の柴田教授ら」)。

体の姿勢を修正する

ロボットに体を押してもらって体の姿勢を修正する

当日は、デプスセンサ(Kinect)とWIiバランスボードを使って人体のスケルトンと傾きを把握して、姿勢を修正するというデモをやってもらった。パーキンソン病の人だと、そもそも自分の傾きが把握できず、それを理学療法士が修正するというリハビリが行われるのだそうだ。物理的に押されることで、力覚的な刺激を直接受けて、自分自身の関節角度情報を修正されることが重要らしい。だが残念ながら急性的な効果はあるものの、恒久的な効果はないとのこと。

2011年のころはマーカーを使ってモーキャプしていたが、Kinectが使えるようになって少しましになったが、バクスターはやはり大きい。ただ、2015年2月に実際の介護施設(鹿児島県薩摩川内市「グリーンライフ川内」)で高齢者相手に試しても、特に怖いとは言われなかったとのこと。実際にやった学生さんによれば、事前にバクスターに直接触ってもらったりして、あまり力がないこと、ふにゃっと動くことなどを体感して親しみをもってもらっていたことも大きいのではないかとのことだった。

個人的な話ではあるが、二十年くらい前に柴田先生のお母様がパーキンソン病を患い、母子二人暮らしだった当時、衣服の脱ぎ着に苦労している様子や、ご本人でも介護で様々な苦労をされたことが、ロボット工学を介護に使うことを思い立った理由だという。この辺の話も研究室でいろいろ伺ったが、いつかもうちょっとちゃんと伺ってみたいと思っている。

衣服を脱ぎ着することは日常動作の一つでだ。だが、ちょっと体を痛めると途端に難しくなる。そもそもロボットにとっては柔軟な物体を扱うのは非常に難しい(柴田研究室ではSIFT特徴量を使って衣服の形状を認識するといった研究も行っている。将来は衣服の折りたたみなどにも応用したいという)。ロボットアームの軌道を作るのが非常に大変であろうことは容易に想像がつく。柴田研では初期軌道は人が与えて、姿勢や素材などの変化に応じて強化学習法を使って運動軌道を探索させている。本当はこのあたりについてもっと詳しく話を聞くつもりだったのだが、今回は時間がなかった。

ニューロマーケティングのような研究も行っている。顔の向きから嗜好を判断してリコメンドするといったアプリをデモしてもらった。実店舗(大学生協)ですでに行っているとのこと。いまはタブレットだが、将来はロボットにリコメンドさせることも考えているそうだ。

手指の動きを二次元に圧縮

手指の動きを二次元に圧縮

トポロジカルSLAM

TurtleBotを使ったトポロジカルSLAMの研究

そのほか、人間の手指の動きのような高次元の情報を二次元上に圧縮表現することで、筋電義手を動かすときのインターフェースやリハビリに使おうとする研究、メトリックではなく構成要素の相対的情報を扱う「トポロジカルSLAM」を用いることで高速にSLAMを実行する研究などについて説明を伺った。

NIRSで楽器練習過程の前頭葉の活動変化を計測

NIRSで楽器練習過程の前頭葉の活動変化を計測

また、NIRSを用いて前頭葉の活動を測ることで楽器演奏のような複雑な運動を練習したときの熟練度の変化を計測し、アドバイスなどに使おうとする研究、あとロボットはいまは動かせないとのことだったが、ダーツを投げるときに人間をサポートしてあげるロボットなどなどの研究も見せてもらった。

まとめに続く

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Written by 森山和道

12月 24th, 2015 at 4:23 pm

Posted in ロボット,日記