森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評 『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』

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共同通信 2010年6月 掲載

共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること
(フランス・ドゥ・ヴァール(Frans de Waal)著 柴田裕之 訳 紀伊國屋書店 ISBN 978-4-314-01063-4 2200円+税)

 笑っている人を見ると楽しい気分になるし、悲しそうな人を見ると落ち込むことがある。

 他者に共感する能力は人間の心の働きのなかでも高尚なものだと考えられがちだ。だが本書は共感は特別な能力ではないと説く。多くの動物の間で協調行動や感情の伝染は見られるし、そもそも人間も頭で考えて他者に共感しているのではない。むしろ自己の身体感覚で、自動的かつ無条件に共感することが多い。

 いっぽう我々は高い共感能力を持つ一方で、公正さについて非常に敏感だ。不公平なずるい行動には懲罰の感情を持つ。この感覚は子供たちの間にも見られるし、同じような行動は類人猿にも見られるという。不公平を嫌悪する感情は、協力行動の裏返しとして発達したのかもしれないと著者は考察している。

 もちろん、人と動物の共感能力はイコールではない。だが、両者の間には大きな隔たりがあるわけではなく、むしろ進化的な連続性、繋がりがあるのだ。本書はそのことを多くの研究成果や動物観察のエピソードなどを紹介しながら、かなりしつこく述べている。類人猿やゾウ等の逸話は博学の著者らしくバラエティに富んでおり楽しい。

 著者が何度も何度も、共感能力をはじめとした人と動物の心の働きの連続性が強調している理由は、特に欧米では人と動物との間を不連続なものだと捉えている人が多いからかもしれない。またこれまでの研究の経緯もあるのだろう。だがむしろ一般の日本人には、素直に納得できる読者が多いのではないか。人も動物の一種なのだから。

 人と動物の認知能力には連続性があり、かつ、質的な違いがある。著者は最後に、人々のまとまりや相互信頼を生み出し、人生を価値あるものにする社会を実現するために我々は共感能力を使うべきだと述べて本書をまとめている。人の心の能力を十分に発揮できる社会的アーキテクチャをデザインするためにも、人の心をさらにより深く知る必要があるだろう。

共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること
フランス・ドゥ・ヴァール
紀伊國屋書店
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Written by 森山和道

12月 19th, 2010 at 11:23 pm

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