森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評『宇宙環境と生命 宇宙生物学への招待』

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「SFマガジン」2009年4月号 掲載

宇宙環境と生命 宇宙生物学への招待
(佐藤温重(さとう・あつしげ) 著 裳華房 1600円(税別) ISBN : 978-4-7853-8786-0)

宇宙環境と生命―宇宙生物学への招待 (ポピュラー・サイエンス 286)

 宇宙飛行中には筋肉中のタンパク質合成が抑制され、アクチンフィラメントが減少する。宇宙飛行の筋肉の萎縮はユビキチン依存性タンパク質分解系による収縮性タンパク質の分解が原因の一つだという。宇宙環境と生命は、広い意味での宇宙環境が生物に与える影響を調べたこれまでの研究結果や、日本の研究者たちの活動などをまとめた本だ。一言で宇宙環境といっても無重量や高エネルギーの宇宙線はもちろん、宇宙船内はエチレンガスの濃度が高めである、といった話も含まれる。本書はハンドブックサイズながら、それらもろもろが圧縮されて収録されている。

 記述は良くも悪くもマニアックで網羅的だ。たとえば宇宙に滞在した飛行士の免疫系が低下する話は多くの読者が知っているだろうが、それが具体的にどのような細胞内情報伝達系を傷害していると考えられているかとか、細胞骨格にどんな影響が出るかといったことまでは、ほとんどの読者は知らないだろう。本書ではそういった事柄も紙幅の限界はあるものの、細かい情報まで記載されていて面白い。もっと大きな内容構成でもそれは同じで、地上でできる宇宙模擬実験や、この領域の研究を行うときに研究者が考えなければならないことまで触れられている。

 宇宙環境は産業利用も検討されているが、まだ本当に有用性があるかどうかは認められておらず、良くメディアで目にするタンパク質の結晶実験も具体的な構造解析や医薬品開発に寄与する結果は得られてないのが現状だという。本書中にはところどころ日本の宇宙開発に関する意見めいたものが行間に読めて、それもまた気になった。

宇宙環境と生命―宇宙生物学への招待 (ポピュラー・サイエンス 286)
佐藤 温重
裳華房
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Written by 森山和道

7月 8th, 2011 at 11:57 am

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