森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評 『ぼくの生物学講義 人間を知る手がかり』

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共同通信 2010年11月 配信・掲載

ぼくの生物学講義 人間を知る手がかり
(日高敏隆(ひだか・としたか)著 昭和堂 ISBN 978-4-8122-1043-7 1800円+税)

 人間はどういう動物なのか。それがこの本のテーマであり、本のもとになった大学での講義のタイトルでもある。

 人はもちろん動物だ。だが体毛を持たず、直立二足歩行する。言語を操り、人間以外は持ち得ない財産継承のために結婚のような社会制度を持つ変わった動物である。

 変わってはいるものの、やはり人は動物の一種である。人にも生物としての遺伝プログラムによる基盤がある。まっさらの状態から何でも学べるわけではないし、行動にも一定の傾向がある。オスとメスは異なる基本的戦略を持っている。それぞれが独自に自分と血のつながった子孫を残すためだ。そのような基盤が底にあって、動物も、そして人間も、社会や社会制度を作り上げている。

 この本では動物行動遺伝学と呼ばれる分野の話が分かりやすく解説されている。文系理系問わず生物学の基礎知識がなくても誰でも読める本だ。

 この分野では子孫をどのくらい残せるかを「適応度」という概念で表す。特定個体が環境に適応しているかどうかではない。子孫を多く残せるかどうか、それが問題なのだ。未解明の謎も多いものの、適応度の概念を使うことで、動物、そして動物としてのヒトの行動の不思議もいろいろと読み解けるようになってきた。これが本書中盤の内容だ。

 だが人間はやはり変わった動物でもある。たとえば想像力と創造力と持っている。では人間という動物集団にあった社会とはどんなものなのか。昨年没した著者の講義は最終的にここへ繋がっていく。

 著者は、特に人間は「思い込み」が強い動物であり、対象を見るときにも、頭のなかを整理するときも「思い込み」を利用しているのではないかと述べている。思い込みがないと、ものは見えない。だが思い込みすぎても、ものは見えない。そういうものであるらしい。

ぼくの生物学講義―人間を知る手がかり
日高 敏隆
昭和堂
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Written by 森山和道

12月 12th, 2010 at 6:59 pm

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