森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』

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「週刊現代」2009年掲載

たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する
(レナード・ムロディナウ著 田中三彦 訳 ダイヤモンド社 定価2000円+税 ISBN 978-4-478-00452-4)

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する

 人生や世の中なんて行き当たりばったり、「たまたま」だ。でも、才能や努力の影響も結構あるし、偶然と才能が半々かな、と考えている人が大半だろう。

 だがたまたまの著者、理論物理学者ムロディナウは、そうではないと断言する。監督がどんなに優れていても映画の不発が続くこともあるし、専門家が市場で勝てないこともある。彼らが自分の能力をちゃんと発揮しても、失敗に終わることがあるのだ。

 つまり、世の中は本質的に不確かなものだというのが本書の趣旨である。常に「たまたま」が本質的なのだという。

 人間は物事に因果関係や必然性を見いだす。その結果、出来事の解釈や期待にバイアスがかかる。成功者を見れば才能があると思い、売れている人間は能力が高いと思う。そして偶然の役割を見落とす。だがたいていの場合、出来事の因果関係は起こったあとでなければ理解できないものだ。成功者たちももう一度同じ条件で同じ事をやったからといって、また成功するとは限らない。

 この本では直感と反することが少なくない確率の考え方の基本から始まり、サンプル調査を支える考え方、潜在的な確率を推測する技術、測定というものが持つ本質的な不確かさなどなどを、ギャンブルの理論化や宝くじで利益をあげた男たちといったユニークなエピソードを織り交ぜて説いていく。通読すれば、測定誤差というものが本質的に切り捨てられないものであることが良く分かるだろう。ここは理系と文系の考え方の大きな違いでもある。歯ごたえのある本だが挑戦する価値は十分ある。

 なぜか。自分の直感や認識にバイアスがあることだけではなく、偶然が持つ本質的な影響力を知ることができるからだ。そして世の中への見方を変えることができるからだ。必然だと思っていたことも偶然という目で捉え直すことで新たな顔を見せ始めるだろう。

 努力しても報われるとは限らないと知ると暗澹たる気分になるかもしれない。だが、チャンスに向き合う回数だけは自分自身で選ぶことができる。コイン投げして何度も裏が出たとしても、投げ続ければいつかは表が出る。打席に立たなければヒットは絶対に打てない。失敗にめげなければ、いつかは成功出来るのだ。もちろん、それなりの準備は必要だが……。

たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する
レナード・ムロディナウ
ダイヤモンド社
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