森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評『環境を<感じる> 生物センサーの進化』

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「SFマガジン」2009年7月号 掲載

環境を<感じる> 生物センサーの進化
(郷康広(ごう・やすひろ)・颯田葉子(さった・ようこ) 著 岩波書店(岩波科学ライブラリー) 1200円(税別) ISBN : 978-4-00-007498-8)

環境を“感じる”―生物センサーの進化 (岩波 科学ライブラリー)

 ニワトリは匂いセンサーが少なく、イルカは嗅覚や味覚をほとんど使ってない。環境を<感じる> 生物センサーの進化は味や匂いの受容体など、感覚の進化に関する本だ。生物は遺伝子を重複させることで、新たな遺伝子を獲得し、新たな感覚を得てきた。もともとの受容体の種類が異なるため、感覚の知覚は生物それぞれで全く異なったものだと考えられる。

 人では、嗅覚や苦みに関連する遺伝子が壊れている。機能を失う偽遺伝子化の速度もヒトでは他の霊長類と比べて数倍速くなっているという。なぜだろうか。

 著者らはこの理由について、ヒトの脳が急速に大容量化したことが関連しているのではないかと推測しているそうだ。つまり脳が、それまで味覚や嗅覚が担って来た役割の一部を代替したのではないか、というのだ。「苦味」の役割は毒物の検知にあると考えられている。だがヒトは大脳を大きくし、互いの経験をコミュニケーションで共有化することで、実際に口になにかを入れる前に、毒物を避けることができるようになった。その結果、急速に苦味や嗅覚が失われていったのかもしれない、という。

 このように感覚の進化・退化は、感覚関連遺伝子だけを見ているのでは解けない不思議をいろいろと秘めている。後半は温度を感じるための遺伝子の話が紹介されている。

 最近、大人には聞こえないモスキート音で若者よけをするというニュースが話題になった。大人が高音が聞こえない理由は知覚するための有毛細胞が老化で死ぬからだが、この有毛細胞を再生する方法も昨年発見されたそうだ。用途は難聴治療だが、将来は若者避けも無効になるのかも。

環境を“感じる”―生物センサーの進化 (岩波 科学ライブラリー)
郷 康広 颯田 葉子
岩波書店
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Written by 森山和道

5月 24th, 2011 at 5:52 pm

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