森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評『発達する知能 知能を形作る相互作用』

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CQ出版「Interface」2008年10月号
書評コラム「こんな本を読んで、こんなことを考えました」第10回 掲載

発達する知能 知能を形作る相互作用
(藤田雅博/下村秀樹 編 シュプリンガー・ジャパン ISBN 978-4-431-10018-8 3500円(+税))

発達する知能 知能を形作る相互作用

 いまはなくなってしまったソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所から、発達する知能 知能を形作る相互作用が発刊されました。彼らが1年に一回行っていたシンポジウムの内容とほぼ同じ、「インテリジェンス・ダイナミクス」に関する研究内容をまとめたものです。本書が3巻目になります。

 7章構成になっており、道具使用から見た知能の考察や、リカレントニューラルネットワークと自己組織化マップを組み合わせた行動学習モデルの考察と実証、乳幼児の観察と脳計測、ロボットを子どもと関わらせたときにどんなことが起こるかといった話題が収録されています。本質的に賢い機械を工学的に実現しようと挑戦した結果の一部が紹介されています。また、最近はテレビですっかりお馴染みになった脳科学者・茂木健一郎氏による講演録「偶有性の脳科学」も収録されています。実際に学生達と研究している内容のことも含まれているので、茂木さんのことをテレビでしか知らない人には、彼本来の話し方やノリが逆に新鮮に感じられるかもしれません。

 順序が逆になりましたが、「インテリジェンス・ダイナミクス」とは何でしょうか。日本語でいえば「動的知能」ということになります。一言でいえば、作り込みではない機械知能を、環境や人間との相互作用のなかから立ち上げようとした試みです。特徴は、予測・制御学習器によって、相互作用のなかから記憶を自然と構造化させようとしたことです。

 編者の一人である下村さんとは雑談させてもらったことがあります。彼は、いまはなきソニーの2足歩行ロボット「QRIO」の開発に携わっていたときに、現状の機械の枠組みのままでロボットを賢くしようと思ったら、ずっと付き合わなければならないと思ったそうです。どういうことかというと、ロボットに対して人間が付き合って、ひたすら場合分けをしていって、どんどんプログラミングしていれば、それなりにロボットは賢くみえるような動作ができるようにはなります。ですが、環境の変化のバリエーションは無限です。人間が無限に付き合うことはできません。

 似たような話はホンダ「ASIMO」の開発グループの方からも聞いています。ASIMOはお茶運びができるようになりましたが、お盆を置くかどうか、そのタスク一つとっても無限のバリエーションがあり、全てを場合分けで書くことはもはや不可能だそうです。ですが人間であれば子どもであってもそれほど苦労しないわけです。

 いや、そもそも昆虫であっても、かなり賢い動きや制御を実現しているように見えます。人間と機械の知能の間には、根本的な断絶があると思わずにはいられません。

 しかしながらまったく見込みがないかというと、私は必ずしもそうは考えていません。ソニーは、言ってみれば「知能とはこういうものではないか」と仮定して研究を進めたわけですが、この取り組みは今もロボットこそ使っていないものの続いているそうです。このやり方が動物のような知能を実現する上で正しい手法なのかどうかは誰にも分かりませんが、今の枠組みとはまたちょっと違った機械が出てくる可能性はあります。

 また機械の人たちが脳科学にアプローチすることで面白い研究が始まる可能性もあるのではないでしょうか。たとえば神経系は非常に遅い機能単位を使っているわけですが、リアルタイム処理や計算リソースのアロケーションを苦もなくこなしているようです。それはどんな計算原理によるのでしょう。様々な分野の人が対話をし始めたら、面白いことが起きるかもしれません。

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Written by 森山和道

5月 23rd, 2011 at 3:18 pm