森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評 『理系のための人生設計ガイド 経済的自立から教授選、会社設立まで』

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CQ出版「Interface」2008年9月号
書評コラム「こんな本を読んで、こんなことを考えました」第9回 掲載

理系のための人生設計ガイド 経済的自立から教授選、会社設立まで
(坪田一男 著 講談社 ISBN 978-4-06-257596-6 900円(+税))

理系のための人生設計ガイド (ブルーバックス)

 理系にも人生設計が必要だ−−。これが理系のための人生設計ガイドの基本コンセプトです。

 いわゆる「理系」と言われる人は、特に若い頃は、金儲けのことや生活設計のことをあまり考えない傾向があります。でもそれは、ひとたびレールに乗ってしまえば、会社なり大学なりが、ある程度生活設計を保証してくれたからこそ可能だったライフスタイルです。今やそんな時代ではありません。「今日」がいつまでも右肩上がりで続いていく保証はどこにもありません。

 くどいようですが、このことは何度強調しても足りないくらい重要です。企業で激しい競争にさらされている人であっても、自分の商品がダメになることは想定していても、会社そのものが倒れることまでは考えていない人が多いからです。未だに住宅ローンを組む人が非常に多いこと一つとっても、それは明らかです。

 もっとも、食べていくだけであれば今は昔よりはるかに恵まれています。しかし、いわゆる「理系」の仕事に就いて「研究」なり「開発」なりを続けていくことで人生を送っていきたいなら、人生設計−−カネ、ポスト、業績、時間の使い方を考えることが必要です。

 この本は、著者の経験をもとに、それを詳細かつ具体的に述べた本です。内容は基本とも言える資産運用の必要性や人的ネットワークの作り方に始まり、研究資金の獲得法や世界で認められる人間になるための方法、社会へのアピール法や会社・NPO法人設立のすすめにまで及びます。

 主に大学での研究職に就く人たちをターゲットに書かれた本なので、たとえばメーカーの開発者の方の状況とはマッチしていない部分も多いでしょう。ですが共通部分も少なくありませんし、すらすらぐいぐいと一気に読める楽しい本ですので、一読なさっても損はないと思います。

 基礎研究にせよ商品開発にせよ、研究力・技術力だけが必要要件だと思っている人はいないと思います。経営センスや表現力、時代の流れを読む力、それらを発揮・提供してくれる仲間たちなどなど、全てが合わさって初めて成功の道を歩み始めることができます。それをどうやって集めていくか。それも人生設計です。

 危機管理能力も重要です。この本でも危機管理能力は「理系の弱点」として登場します。理系の人は仮説を立てて実験やモノ作りを通してそれを「修正」していくことには馴れています。しかしながら自分の頭で考えた枠外から起きる、まったく想定外の事態にはうろたえてしまう人もいます。トラブルは技術的なことだけに限りません。人間関係かもしれませんしカネの問題かもしれない。私生活や家族に関わることかもしれません。年を経るに連れて、起こりえる問題の種類は増えていきます。いずれにしても、いつ何が起こるのか分からないのが人生です。

 人生設計のためにもっとも必要なことは自己分析です。自分はどういうタイプなのかと考え、自分の価値、やりたいこと、戦略を明らかにし、自分自身の「ストーリー」を描かなければならないと本書では述べています。

 自分自身の人生と自分が世に出していきたいモノ−−両者のストーリーを、共に具体的にワンステップワンステップ描きだし、綺麗に重ねていくことができれば御の字ですが、世の中そんなに簡単には行きませんよね。

 特に自分の能力が高い理系の人が陥りやすい罠は、自分一人でなんとかしてしまおうとすることです。ですが優れたパイロットでも飛行機や整備士、飛行場がなければだめです。人間が周囲の環境を整えていく能力を支え盛り立てることがSNSなどの本来の役割のはず。ですが、あまりうまく動いてないようで残念です。

理系のための人生設計ガイド (ブルーバックス)
坪田 一男
講談社
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Written by 森山和道

3月 4th, 2011 at 3:18 pm