森山和道

サイエンスライター。科学書の書評屋もやってます。

書評 『物質のすべては光』『太陽の科学』『新企画は宇宙旅行!』『笑い脳』

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「日経サイエンス」2010年4月号 書評欄 「森山和道の読書日記」掲載

 クォークはグルーオンという粒子でやりとりされる「強い相互作用」で結びついている。1970年代に、理論物理学者ウィルチェックは「強い相互作用」が近距離では弱くなる性質「漸近的自由性」を発見し、後にノーベル物理学賞を受賞した。彼による著書物質のすべては光は、宇宙のありようと質量の起源についての本だ。

 素粒子物理学や宇宙論がらみの本を読むと、物質や空間の正体とは何なのかと考えずにはいられない。考えれば考えるほど分からなくなるのだ。本書によれば質量とは、クォークの色荷によるグルーオン場の擾乱と、対を為すクォークと反クォークとの間の、量子力学的なせめぎあいから生まれるものだ。そして空間は空っぽの容れ物ではなく、著者らが「グリッド」と呼ぶ実体であり、むしろ物質のほうがその一側面に過ぎない。そして我々が暮らすこの宇宙は、ある種の超伝導体のようなものなのだという。

 本書のテキストは軽やかでジョークに満ちている。しかし内容そのものがかなり難しく、正直な話、ジョークどころではない。だが読んでいるとわくわくしてくる本だ。考え方や論理の流れをグルッと大きく変えることで、世界の見え方がいきなり変化することを読者に体験させてくれるのである。目に映る世界は、単に我々にそう見ているだけで、本質は別物かもしれない。その不思議の醍醐味が感じられる本だ。本書単独で理解することは難しいと思うので、類書も合わせて読むことをおすすめしたい。

物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源
フランク・ウィルチェック
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 性質はだいぶ違うが、太陽の科学も類書と合わせて読んだほうがいいかもしれない。こちらは磁気のリコネクション(つなぎかえ)をキーワードとして、現在の太陽物理学、シミュレーション、そして観測衛星「ようこう」や「ひので」を使った知見を解説した本だ。

 カルチャースクールで行った講義をもとにしているのだが、やや不親切で話の流れを把握しにくいところがある。だが内容そのものは面白い。巨大なスケールで絶えず脈動し、磁場のエネルギーを放出させているダイナミックな太陽の姿には、ただただ圧倒される。太陽活動は磁気嵐をもたらし、時として大停電に繋がるし、太陽活動変動は地球全体の気候を変える。分かっていることだけではなく、メカニズムが未解明の現象についても書かれている点が嬉しい。

太陽の科学―磁場から宇宙の謎に迫る (NHKブックス)
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 遠い将来には、宇宙に出て星々を見ることもできるのだろうか。せめて弾道飛行だけでもしたいところだが、それすら、なかなか難しい。新企画は宇宙旅行!は旅行会社JTBで宇宙旅行パックツアーを立ち上げようとした顛末をライターが取材して書いた本だ。内容はだいたい想像通りである。

 敢えてこの本を紹介するのは、宇宙開発業界からは大変なことだと言われた宇宙旅行企画が、旅行業界からは単なる旅行だよね、と言われたという話が収録されていたからだ。この、業界内外の温度差は面白い。

新企画は宇宙旅行!
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 面白いと感じたとき、人は笑う。まだ始まったばかりの笑いの脳科学の本、笑い脳によれば笑いは自己報酬だという。また、笑いは伝染する。人を笑わせ、笑顔を見る。するとその笑顔が報酬として働く。そして自分も笑い、また相手も笑う。そういうものらしい。他にもマンガを見せたり、擬態語を聞かせたりする実験の話が収録されている。

 一言で「笑い」といっても色々な種類がある。脳のなかの様々な機構が笑いに関わっているからなのかもしれない。どうせ笑うなら常に心の底から笑いたい。

笑い脳――社会脳へのアプローチ (岩波科学ライブラリー)
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(もりやま・かずみち:サイエンス・ライター)

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Written by 森山和道

2月 18th, 2011 at 2:34 pm