実際には処女作なのだが、やっぱり外伝的な楽しさで読んでしまう。知ってる名前に、「おっ、出てきた出てきた!」「こいつはこういう登場の仕方かー」ワクワク、というあれね。
内容は、どうかなー。いま一つのような気がしなくもない。ストーリーはなんだかなー、というくらいアリガチだ。どうしてヒロインとヒーローが近づくのかもちょっと謎だし。この辺はバロウズを見習って欲しかったなあ。それに、章と章の間の飛躍がちょっとありすぎ。ときどき話を見失ってしまった。
本来ならばこれが第1作なのだから、この本から読んでも読んでも良いはず。だが、それはちょっとおすすめできない。日本でまずこれを出そうとしなかったのは賢明。
ただ、やっぱり外伝としては十分に面白い。一気に読めてしまったのは確か。シリーズのファンの人はオッケーだろう。
登場人物達の衒学趣味というか、蘊蓄を垂れながらの会話も相変わらず。こういう会話シーンは、彼の作品全般に見られるけど、特に本作では目立っているような気がした。クラークのある種の理想なのだろうか?まさか普通の欧米人が、こんな風にやたらと蘊蓄を傾けながら語り合っているとは、到底思えないのだが──。
あと、ハインラインの思想に近いようなことを、登場人物の何人かに言わせているのが気になった。これはどういう意味があったのだろうか。この本が出版されたのは90年だけど。
他には、解説っぽいことをつけ加えておく。ペルチエ効果(Peltier effect)は、もちろんクラークの創作ではない。僕はこの辺詳しくないので説明は省かせて頂くが(誰かフォローよろしく)、CPUの冷却やクーラーボックスなどに使われている。
ラマヌジャンは高名な数学者。証明をいきなりすっとばしたような解答で有名だったという。彼には全て自明だったらしい。これにはもう一つ理由があって、彼は数学は自学自習だったのだ。働きながら、教科書で学習したそうだ。で、そのカーという人物の手による教科書には、素気ないヒントしか書かれておらず、それで彼は数学の成果を伝えるのはそういうもので十分だと思っていたという。以上、科学史MLで仕入れた知識でした。
深海底での堆積物爆発に関しては、最近注目されている、と聞いている。これとはまた別だが、ガスハイドレイドの解放が、同様の現象を引き起こすこともあるらしい。
マンデルブロ集合については、今なら誰でもお手軽に描けるし、これだけ本書に解説されてるから、説明はもう不用だろう。
しかし、クラークの本の解説書いている人も大変だよね(多分)。同じ様なことばかりしか書けないんじゃないかしらん。基本的に彼の作品はやっぱり同じ、って気がする。映像的な描写、技術的詳細、衒学趣味的な会話、ストレートなストーリー運びと象徴的なテーマ、シナリオ風の文体。これらがあいまって、クラーク作品の雰囲気を作っている。