この本がなぜSFに分類されているのか不思議だ。昔ならNVのモダンホラーのところに並んでいたのではなかろうか。SFというより、ゴシックの血を継いだ幻想小説、といった感がある。
この本の主な舞台は診療室だ。もちろん、主人公はいくつかの場所をうろつくのだが、それでも、なぜか診療室が主な舞台、といった感じがする。それぞれの場所は、主人公の心象風景の類に過ぎないように感じる。物語全体に、閉塞感があるのだ。物語が、診療室の中の患者の話を聞かされながら進行しているような、そんな印象がある。作者が意図したものかどうか、それは分からないが。
物語は、夢と現実がだんだん「ないまぜ」になっていきながら進行していく。この辺りは、まさに夢、悪夢をモチーフにした幻想小説でお馴染みの手法。ただ、描写はさすがに今日的、映像的。映像手法の一つに、白のフラッシュを一枚入れて、心象風景を挟み込むカットバックがあるが、ああいった感じのシーンが間にまぜこぜに入り交じりながら、だんだん幻想と現実の世界が交叉していく。
全体的に陰気くさい話なので、そういうのが嫌いな人はダメだろう。そうだな、陰気くささでは、どこかジョン・ソールを思わせるものがある。ただし、ラストシーンのお陰で読後感はさわやか系。明るいジョン・ソールか。違うような気もするな。ちょっと夢野久作しているような所もある。でも結局は「癒しの物語」になってるから…。
解説:香山リカ。タイムリーな訳出タイミングであるとは思うが、もうちょっと違う解説が読みたかったような気もする。