97年1月SF Book Review


正月3が日、実家に帰省。未読のSFと怪奇小説の山を読みまくる。
でも、まだまだ、なくならんなー。

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  • 大いなる旅立ち 上・下
    (デイヴィッド・ファインタック 野田昌宏訳、早川書房、各700円)
  • 本年度ジョン・W・キャンベル受賞作。

    まず、読後感はすごくいい。爽快感がある。そういう本だ。
    買え、とは言わないが、買っても良いと思う。表紙絵は気にしないこと。

    粗筋は例によって他のページにおまかせする。典型的な「軍隊での青年成長もの」である。主人公ニコラス・シーフォートが士官候補生として乗り組んだ宇宙船での出来事を通して「自分を信じて」いけるようになるまでを描く物語。間には飽きない程度にイベントが起きる。
    特に変わったアイデアやド派手な展開はないのだが、どんどん魅力をます主人公の力で引っ張っていく。先が読みたくなる、というか、この主人公と付き合っていきたくなる。

    しかし、表紙絵はやっぱり気に入らない。
    この表紙絵がなければ、さっさと買っていたのに。

    なにより本書の持つ、至って硬派な雰囲気と合っていない。イラストがどうこう、といったことではなく内容と合ってないのだ。
    本書は主人公の一人称で語られるのだが、この主人公、規律に極めて忠実な、いわゆる堅物的な人物で、おそろしくマジメ。訳文でも一人称は「私」である。
    それだけに、不可抗力だった事を「自分の判断ミスだ」とし、いつまでもじくじくとマジメに悩み、その自分自身の内面の葛藤と成長を描きだす、という物語が成立しているわけだ。もちろんそれだけの地味な話ではないのだが、それほど派手な話でもない。何より、このマンガ調のイラストが似合うような話ではない、と思う。

    合っていない、と言えばもう一つあって、「銀河の荒鷲シーフォート」というシリーズ名もおそろしく合ってない。主人公シーフォートが聞いたら、「なんだって、悪いがミスター、もう一度言ってくれ」とか、「頭痛がする」と言いそうなタイトルである。

    なお、<訳者あとがき>は先に読まないように。話が全て分かってしまう。

    最後に。
    本書中に「ポリエスター合成装置」なるものが登場するのだが、
    大元帥、これは「ポリエステルpolyester」の事じゃないんですか、サー?
    できれば「おう、神様」もやめて欲しいのだが…。


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  • インフィニティ・リミテッド 上・下
    (ジェイムズ・P・ホーガン 内田昌之訳、東京創元社、各650円)
  • ああ、分かってる分かってる。
    SF文庫から刊行されていても、この本はSFではない、それは購入する前から分かっていた。しかし、俺は悲しいかな、ホーガンのファンなのだ、例えそれがSFではなくても買わずにはいられないのだ。

    本書は、ホーガンの、SFじゃあない面「のみ」が全面に押し出されたスパイ冒険小説。これまで、ばりばりのSFと、SFチックなスリラーを書いていたホーガンだが、この小説では、SFの色は微塵もない。純粋な、スパイ冒険小説である。
    実はSF的な設定が隠されている、ということは決してないので、そういうのを期待する人は読まないように。

    僕は、ホーガンのスリラー的な小説(「プロテウス・オペレーション」「ミラーメイズ」とか)は全く評価していない。一読者としては、昔のホーガンに戻って欲しい。

    さて、この本そのものについてだが、暇つぶしのエンターテイメントとしては、まあまあのデキ。これまでの奴よりは面白いと言える。ホーガンが色気を出して続編を書いたりしないように、ホーガンSFファンとしては祈るしかない。

    ところで、この本の中にも、やはりホーガンらしさ、「ホーガン節」はある。ラストの明るさ(というか楽天主義)もその一つだが、ここでは、ホーガンの考えが良く現れていると感じた本文の一部を抜き出して、紹介しよう。

    「英語では皮肉屋の反対をなんというのかな?」
    ジュリアはちょっと考えた。「楽観主義者でしょうね」
    モノーは驚きをあらわにした。「それは悲観主義者の反対語かと思っていたよ」
    ジュリアは運転しながらかぶりをふった。「いいえ。皮肉屋は最悪の展開を予想しますけど、最良の展開になる可能性も受け入れます。楽観主義者はその正反対です。でも、どちらも現実を忘れることはありません。…(中略)」

    「すると悲観主義者の反対は…なんだろう?」
    「世界が正しい方向にだけ進むと信じているわけですから、やっぱり非現実的ですね」
    「そういう連中のことはなんて呼ぶんだい?」
    「それは…アンリ、だれよりもあなたがよく知っているでしょう。ロマンチストですよ」

    ホーガンのファンが次作を首を長くして待つ間、しばしなつかしの「ホーガン節」に浸って喉を潤すことはできるだろう。
    はやく「造物主の掟」の続編とかを、ばんばん訳出して欲しいものだ。


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