もう良いって?
ではでは、今月のSFです。
悪口はこれ以上書きたくない。違う意見の人もいるかもしれないから、別の書評欄でも探して下さい。
ハインラインの再来と絶賛されたそうだが、私が読んだ印象では、ハインラインよりむしろヴァーリーを連想させる。両者の中間くらいか。
近未来が舞台なので、本作の世界はヴァーリーが描く作品群ほどラディカルに変化しているわけではないが、生まれた時から宇宙に住み、管理された世界に住む彼女たちの変容した価値観、世界観、倫理、思想。元には決して戻らないもの。そういったものが、あまりあざとくなく、さりげなく語られている。
全ては変わっていく。
少年少女の成長物語でもあるが、そちらの方が主題だったのでは、と思う。私自身がそういう話が好きだからかもしれない。
91年ネビュラ賞候補作。
時は33世紀。一人の天才科学者による大統一理論完成の恩恵を受け、テクノロジー革命が起き、エネルギー問題は解決している。人類は太陽系各惑星に植民、各植民惑星・小惑星上には人工重力が働き、人工太陽が輝いている。各惑星系には、かつての地球の国家民族がほとんどそのまま植民し、それぞれ独自の文化を持っている。そんな世界。
大統一理論を編み出した学者は、晩年、「自分の理論を音楽で表現」できる一つの楽器を作り出した。パイプオルガンに色々な楽器が融合した巨大な樹のような形をし、一人でオーケストラを演奏できる巨大な楽器。イメージ的には加藤&後藤氏が以前書いていたマンガ(やイラスト)の中に出てきたような楽器だろう。安易な発想のようだが、実際かなり近いのでは、と思う。
主人公は天才音楽家。その楽器<オーケストラ>の9代目のマスター。彼は冥王星から内惑星まで太陽系縦断グランドツアーに旅立つ。
彼には、一つの夢があった。それは<オーケストラ>本来の性能、目的を引き出すこと。<オーケストラ>は宇宙を記述している大統一理論を表現できるように作られている。ならば、宇宙の全てを音楽で表現できるようはず。「音楽で宇宙全てを表現する」。それが彼の夢。
各惑星で演奏を続けながら、彼の交響曲は完成に近づいていく。そして謎の教団が彼に接触してくる…。
太陽系を縦断、各惑星を訪問しつつ、謎の教団やトラブルに巻き込まれながらも交響曲を完成に近づけていく、というとドタバタスペオペみたいだが、そういう話ではない。また「宇宙を音楽で表現」というと奇想SFみたいだが、そういう話でもない。いや、奇想SFみたいな所はちょっとあるか。凄い話。
一見、地味な押さえ気味のトーンで物語は進行していくが、そこは交響曲と同じ。徐々に盛り上がっていき、主題が繰り返され、ラストに急激に収束していく。
これまた交響曲と同じで、好きな人なら最初から最後までちゃんと読んで感動できるだろうが、飽きっぽい人なら最初の方で読み止めてしまうかも。もっとも、前半部にもそれなりに工夫は凝らしてある。また、ロビンスンの情景描写力はかなりのもので、各惑星訪問のシーンはそれだけで異世界探訪ものとしても読めるくらい。文章は綺麗で、こういうのを「みずみずしい」描写というのかな。
というわけで、読むのを止めなければ大丈夫。面白い。
小説の技法面でも面白い。本書の構成は交響曲を意識して書かれている。同時に、3人称的一人称の多用と「神の視点」の導入、主人公の自己を希薄化させる二人称単数現在形の使用などにより、演劇的、舞台装置的な印象も受ける。もちろん、こういった手法の導入には理由があるのだが、それは読んでからのお楽しみ。
なお、本書表紙についてちょっと一言。
もっと派手な表紙絵でよかったんじゃないかな。「本文の内容」に引きずられすぎで、どうも「全体のイメージ」とは、ずれている気がする。
なお、ここで原著の表紙を見ることができる。この表紙はまた面白くないな。