96年1月SF Book Review


今月はあんまり新刊出ないみたいですね。カードの新シリーズも読んでないし。というわけで、ボクはミステリや昔の名作などをダラダラ読んでました。今月は少ないです。

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  • フラックススティーブン・バクスター、早川書房)
  • まず、はじめに。
    私は「時間的無限大」は読んだが「天の筏」は読んでない。
    畜生、読んどきゃよかった!!

    本作は、間違いなく今年のベスト10の中に入るはずだ。ぶっちぎりで面白い。久々の大型SF。

    「時間的無限大」の評価はかなり高かったようだが、私は溢れかえるアイデアに筆力が及んでない気がして、全体としてはあまり感心しなかった。それで、実はそれほど期待していなかったのだが…。

    読んでいると、ニーヴンの「インテグラル・ツリー」や「リングワールド」を思い出す。SFの醍醐味の一つに「別世界体験」があると思うが、そちらが好きな方には文句なしでおすすめ。バクスターは一つの異世界を見事に造り上げて披露してくれた。

    また、バクスターの作、舞台は中性子星の中、そして解説は橋元淳一郎氏、と3拍子揃ったこれらから分かるように、ハードSF的なアイデアとガジェットも愉快痛快。そっちの好きな人にもおすすめ。とにかく、色んな人にお勧めだ。

    「フラックス」も一連の宇宙の支配種族ジーリーが絡むシリーズの一つ。他の作品と同じタイムラインにのっている。

    取りあえずストーリーも紹介する。
    舞台は中性子星の中、地殻とコアの境界、核・電子・超流体中性子が存在できる幅100メートルほどの領域。その中では身長10ミクロンの「人間」達が暮らしていた。彼らは、自分たちが「原人」によって作られた生物であることは知っているが、それ以外の記録は争いによりほとんど失われている。しかし、人々は独自の文明を造り上げ、自分たちなりに暮らしていた。ある人々は6つの眼柄とヒレを持ちジェット屁で推進するエア豚を追いながら、さしわたし1cmの街とその郊外に住む人々はそれなりに…。
    ところが近年、グリッチと呼ばれる星震が頻発し、人々の暮らしが脅かされるようになってきた。これまでにない頻度と規模で星震は起こり続け、猛威を振るう。原因は一体…?そして「原人」は何のために中性子星にコロニーを作ったのか?
    以上が舞台背景で、これに主人公姉弟の冒険と成長の物語が絡んでくる。そして、もちろんジーリーも。

    読後感は、「時間的無限大」ともどこか共通点がある。そう…、なんというか、歴史の観察者の目というか、何かそれに似たものだ。バクスターがハードSFの文句なしの書き手であるのは間違いないが、巨大な歴史の一場面を描き出すストーリーテラーとしても、相当の力を持っている事をようやく実感した。

    解説に寄れば「Ring」も間もなく訳出されるという。うーむ、それまでに「天の筏」を読まないと、またツンドクの山が増えてしまう…。早く買いに行こう。
    SFにまだ驚きを求める人にお勧めする。

    なお、本書とは関係ないが、間もなくBaxterはWWW上で実験的な短編を発表する、との事。ここにincluidされるとのことなので、ファンはマメにチェックするといいだろう。

    と書いたそばからここで読めるようになった!(1/24)Thanks, Mr.Kellar ! 電話代にはくれぐれも注意。なお、彼によると"Flux"は確かに凄いが"RIng"と"The Time Ships"を読むまで評価は待て、あっちの方がずっと凄いからとの事。こんちくしょう。英語が母国語の奴がにくい。


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