原題は"The Next World War"、次の世界大戦。決して起こって欲しくないし、起こしてはならないものだ。だが現実の「戦場」は決してなくなってはいない。それどころか銃弾こそ飛び交わないもののの、拡大しつつある。
本書のキーワードは「インフォーメーション・ウォーフェア(IW)」。情報戦である。ただしここでいうウォーフェアというのは単に戦争のみを意味するわけではない。戦術や戦略、使用される技術など全てを含んだ言葉である。
よって本書の内容も幅広い。衛星やコンピュータを駆使する軍隊、戦果のみならず民間メディアの目を意識せざる得なくなった戦場、まだ見ぬ未来兵器群、クラッキング、そして国家のイメージ戦略に到るまで、ありとあらゆる話題がジャーナリストの視点でひとくくりにされて語られている。
後半でかなりの紙幅が割かれているクラッカー達の話は本誌読者にはおそらく旧聞に属する話であり、やや退屈であろう。だが前半で語られる、おおよそ信じがたい未来兵器の数々はどうだろう?
背中には小型パソコン、腕には小型キーボード。ヘッドアップ・ディスプレーに映るのは、翼に極微小のアクチュエーターを付け音もなく飛行する超小型飛行機からの暗視映像。昆虫なみの大きさと能力を持った知能飛行爆弾。これらが全てネットワークで接続され管理された戦場…。SFではない。これらの兵器が実際に開発されているのだ。いまや、艦船や戦車のみが兵器搭載の対象ではない。人間搭載兵器──「スタンド・オフ」と呼ばれる、人間を兵装する技術が2000年には実戦配備されるという。これはヒューズ・エアクラフト社とモトローラ、ハネウェルなどの共同開発である。そのほか、数多くのウェアラブル兵器が開発されつつある。ウェアラブルPCの最大のアプリケーション、スポンサーは軍隊なのだ。この辺の現状を、本書以上に詳細にレポートした記事を私は知らない。
かつて情報とは、戦争を遂行する上で、戦いを助ける補助的なものであった。ところが現在の意味は違う。本書登場人物の一人はこう語る。「情報とは場でもあり、任務でもある」
つまり今や情報とは、戦場や敵の状況を知り技術力をアップさせるだけのものではない。軍事作戦を行う場そのものでもあるのだ。これからはIWによって地上軍を派遣したりすることなく、戦争は静かに始まり終わってしまう可能性がある。既に世界各国のコンピュータの中にはトロイの木馬などでウイルスが仕込まれているハードが多数存在するという。
情報、そして戦争の意味は完全に変わってしまったことを、ただただ実感させられる本である。こんなところにまで情報革命は起きている。