さて本書は、そのマイクロソフトが如何にして市場での力を伸ばしてきたか、その軌跡を告発的に追うドキュメントである。市場での影響力を増すことは、通常、成功物語として語られるべきものだ。だがマイクロソフトとビル・ゲイツのやり方は、反トラスト法違反スレスレ、あるいは違反そのものであり、はっきり言えば「略奪的商行為」だ、というのが本書の主張である。
著者は綿密な取材で業界を飛び交う噂の裏をとり、単なる点でしかない話を紡ぎあげ、マイクロソフトのやり方を明らかにしていく。例えばマイクロソフトはMS-DOSの対抗馬であったDR-DOSへの妨害行為として、DR-DOS上でWindows3.1を使用するとエラーを引き起こす「卑劣なコード」をすりこませた。フェイントのようなやり方で主力OSをOS/2からウインドウズへと切り替えて、IBMやソフトウェアメーカーを大混乱に陥れた。しかもその間に自社だけがウインドウズ対応ソフトを売り込む時間を稼いだ。他社OSを組み込ませないよう契約を替え、抱き合わせ販売を行った。小さな会社が開発した技術を安い価格で買い、さらには叩き潰した。
問題は市場の状態なのだ。市場のシェアが、優れた技術開発による自由競争によって争われているのならば問題はない。だがシェア拡大が独占力を使って力づくで行われているとなると、市場、そして業界は健全な状態とは言えないだろう。ここが問題とされている点なのだ。マイクロソフトは構造的な問題を市場にもたらしているのか否か? 現在の争点はここなのである。
一方、著者が斬るのはマイクロソフトだけではない。返す刀でマイクロソフトのやり方や市場のニーズを見抜けなかった他社トップ、監視者であったはずの政府役人らも撫で斬りにする。そして、その間を鋭く突いたビル・ゲイツが天才であったことは確かなのだ。いかなる種類の人間であろうとも。
しかし本書を通読して改めて驚いたことがある。これら全てが、ここ10年間に起こったことに過ぎないことだ。これからは一体何が起こるのだろうか?