NASAの元エンジニアの自叙伝。 映画『遠い空の向こうに(原題:October Sky)』原作。
時は1950年代後半。舞台は閉山を迎えつつある炭鉱の町ウエストバージニア州コールウッド。ここに生まれたものは、誰もが炭鉱夫になるものと思われている、そんな町。
米映画を見れば分かるとおり、アメリカの高校生は落差が激しい。コールウッドでも大事にされるのはアメフト選手ばかり。女の子にもてるのもアメフトの選手だけ。奨学金を得て町から出ていけるのもアメフト選手だけ。 そして、父親から目をかけてもらえるのもアメフト選手だけ。
そんな町で。ある日、高校生のホーマーは天空を横切る輝線を見た。ソ連が打ち上げた人工衛星、スプートニクの輝きだった。その瞬間、なんの取り柄もなかった少年の頭のなかで一つの思いが閃いた。
「そうだ、ロケットを作ろう!」。
最初はちっぽけなアルミの筒だったロケットだが、頭の切れる仲間を集め、燃料を改良し、理解ある大人たちの協力を得て、少しづつ立派なものへとなっていく。空へ空へ、より高く上がっていくロケット。度重なる失敗にもめげず打ち上げに挑むホーマーを中心とした仲間たちは、やがて「ロケットボーイズ」と呼ばれ、町の人気者となっていった。だがホーマーの父は相変わらず彼を認めようとはしない。
町全体の空気も変わりつつあった。
炭坑では落盤事故が発生するいっぽう、炭鉱状況そのものが不況に陥りつつあったのである。労使は対立し、会社と現場の間に立つホーマーの父は厳しい状況におかれる。
町全体に重い空気が空気が流れるなか、ホーマーは病魔と闘う女性教師の励ましを受け、<ロケットボーイズ>代表として全米科学フェアに参加することになった。はたして田舎の高校生に栄光は訪れるのか。そして、ホーマーの父は打ち上げを見に来てくれるのだろうか…。
おおざっぱに言ってしまえば、こういう話だ。アメフトのスタープレイヤーである兄を持ち、炭坑の現場監督である頑固な父との葛藤を抱えながらも、聡明な母、理解ある女性教師、町の人々、そして何より友人たちに恵まれた一人の少年が、手作りロケットの打ち上げを通して、力強く、人間として成長していく様を描く。
友情、家族愛、そして何より夢を抱くこと。夢に向かって努力すること。そんな当たり前のことが、すごく、ものすごく大切なんだということが素朴に伝わってくる本である。彼らが空に打ち上げたロケットは、全ての若者の夢の具現であり象徴なのだ。
事実に忠実な自叙伝ではなく、脚色を加えて、より読み物っぽくしたものらしいが、本書の価値を減ずるものではない。個人的には、もう一回リライトして小中学生が読める程度の分量にジュブナイル化し、全国の学校の図書館に置けるような本にしてもらいたいと思った。
夢を持ち、貫きとおそうとする一人の少年。それを理解し、支え合う周囲の人々の優しさ。そして、ついに訪れる父との理解。感涙必至の傑作だと断言しよう。 下巻巻末に寄せられた宇宙飛行士・土井隆雄氏の小文がまた泣かせる。
とにかく、いい話である。