技術は何のためにあるのかと問われたとき、あなたはどう答えるか? 私は、技術は人を幸せにするためにある、と答える。
「人はみな『〜をしたい』という望みを持って生きているのだ」という<まえがき>で始まる本書は、特に老人たちの「〜したい」という気持ちを実現させられるための道具を紹介した本である。「いわば、積極的に生きるための欲望追求型シニアグッズ・ガイド」である。
加齢と共に人間の体は自由に動かなくなる。これまで使えていたモノが、自由に使えなくなってくる。だが、道具の方にちょっとした工夫さえあれば使えるのだ。
たとえば手が不自由になると、皿の上の食べ物を上手にすくうこともできなくなる。そんな人たちのために、食器の奥の縁が内側に返された食器がある。また、結合部分にバネをとりつけてピンセット状にした箸がある。形状記憶ポリマーで作られ、どんな形の手にも合うように変形できるスプーンがある。手の力が弱くなるとソックスを履くにも不自由するが、そのためにサポートしてくれるグッズがある。ポータブルトイレを使わざるを得なくなった人たちのために、見かけはただの木と和紙でできた和風のついたてだが、実体は酸化チタン光触媒内添紙を使って抗菌脱臭作用を持たせたハイテク製品がある。
そのほか、片手が不自由な人のために野菜を固定できるように工夫されたまな板や、首が思うように動かない人のために顔を上げずに飲めるコップや寝たままでも飲めるコップ、中には総入れ歯の入れ物なんてものまである。もちろん各種車椅子も紹介されている。その多様さに驚くのではなかろうか。
なんだ福祉グッズかと思うかもしれない。
だが障害者や高齢者にとって使いやすい道具とは、健常者が使っても使いやすい道具なのである。ニーズ先行であるため道具の使用目的がはっきりしている製品ばかりだからだ。そもそも健常者といっても、いつかは必ず年を取るし、いつ事故等に遭うかも分からない。骨折したときに、ちょっとしたことをするにも大いに苦労したという経験は誰もが持っているはずだ。人は自らに災難が降りかかるまで身近な環境の便利さに気づかない。だが自らがハンディキャップを背負ったとき、初めて気づくのでは遅いのだ。技術が人の幸福のためにあるのならば、最初からその辺も考えて設計して欲しいものである。本書は福祉グッズガイドとしてはもちろんだが、それを考える一つのきっかけともなるだろう。
そう、当然本書に紹介されているグッズたちには製作者たちがいるのだ。彼らこそ、真の意味でヒューマン・インターフェースを理解している人々であると言える。使いやすい道具、これこそがヒューマン・インターフェースの基本だ。本書に収録されたモノたちには、設計者達の理念が埋め込まれているのである。
お年寄りほどモダンなデザインを好む傾向にあると本書はいう。これからの高齢化社会、どんな道具が世に登場してくるのだろうか。