02年7月Science Book Review


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  • 植物のかたち その適応的意義を考える
    (酒井聡樹(さかい・さとき) 著 京都大学学術出版会(生態学ライブラリー19) 2300円 ISBN 4-87698-319-4)
  • 最近では『これから論文を書く若者のために』(共立出版)で知られる著者が、自分自身の大学院生時代の二つの論文の執筆過程を通して、「研究」という過程の実際を描く。1人の研究者が悪戦苦闘しながらも成長していく過程がよく分かる。著者の当時の研究はカエデの稚樹の分枝伸長様式(≒形)の適応進化と、草の形の適応進化の理論的解析。当時から植物生態学と系統進化学の中間的研究を志していたという。ただ、研究内容の解説が主眼ではないとはいえ、通読しても研究内容そのものにいま一つ魅力が感じられない点が残念。

    ともあれ、「座右の論文」との出会い、論文に出ていたことを自分で実際に追認したときの感動、論文査読と改訂、失敗、挫折、紆余曲折、これでいける!と閃いたときの発見の喜びなど、研究を志している人は色々と共感できるところが多いと思う。


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  • ゾウの耳はなぜ大きい? 「代謝エンジン」で読み解く生命の秩序と多様性
    (クリス・レイヴァーズ(Chris Lavers) 著 早川書房 2200円 ISBN 4-15-208432-4 原題:Why Elephants Have Big Ears : Nature's Engines and the Order of Life, 2000)
  • タイトルから判断して、代謝の面白話を集めたようなありがちな本かと思っていたが、実際の中身は、生物がいかに環境に適応し、生理メカニズムを進化・多様化させてきたかということを、それぞれの動物のエネルギーの消費と生活様式という観点から見る本だった。面白い。

    著者は小さい頃から素朴な疑問を覚えていたのだそうだ。なぜアフリカのサバンナにいるのは哺乳類ばかり、大型の陸生爬虫類がいないのか? 川や湖に住む大型動物はワニや亀が多いのか? 

    ゾウの耳が大きい理由は、一般的に余分な体熱を耳から放射して、カラダを冷やすためだと言われている。ではサイやキリンなど、同じようにアフリカの強い日差しに焼かれている他の動物の耳はなぜ大きくないのか。決定的な違いはサイズである。ゾウは他の大型動物と比べて優に2倍は体重がある。そのため、サイのように体毛をなくすだけでは充分ではないのだ。

    さて、この話はこの本の頭に書いてあるのだが、あくまでイントロダクションに過ぎない。動物の代謝メカニズム、サイズや種類の多様さが、地球上の生物の特徴の重大な制限条件となっていることを一つ一つ明らかにしていく。

    たとえば、ハダカデバネズミという平均体重28グラムとごく小さい齧歯類がいる。哺乳類なのに社会性昆虫のようなコロニー制で暮らす動物として知られている動物だ。しかも彼らの体温は、周囲の環境温度と同じなのだ。つまり彼らは、哺乳類だが変温動物なのである。彼らのカラダのサイズと変温という戦略は、少ない食料でコロニー全体の生存率を最大にするためだったと考えればうまく説明できる。変温動物はエネルギー需要が少ない。大きな個体がやるよりも、カラダは小さくてもより多くの個体がいろんな方向に穴を掘るほうが餌を見つける確率は高い。そういった理由で、ハダカデバネズミの奇妙な生態が進化してきたのではないかと考えられるのだ。

    温血性の動物のほうが冷血性の動物よりも優れていると考えがちだが、実際にはそう単純ではない。なにしろ温血性の動物は常にアイドリングを続ける車のようなもので、無駄にエネルギーを食う。大量の食料と酸素が必要なのである。それだけではなくパワーのある心臓、肺、血管など、新型の燃料供給システムも必要だし、熱を遮断する断熱性のある外皮、また適度に放熱するシステムなども新たに必要になる。これら全てを維持するだけのコストをかけても、なおかつメリットがないと、温血性の説明は難しい。場合によっては変温動物のほうが遙かに有利なのである。たとえば砂漠では、呼吸が速く、肺から湿気を逃がしてしまう温血動物は不利である。

    「生命維持に要するコストの根本的差異」が本書のキーワードである。このキーワードを使って、前半では哺乳類型爬虫類や恐竜の生理の可能性などを紹介しつつ温血性への進化を考察し、後半では地球上の基本的な生態学的・生物地理学的なパターンを説明していく。そしてそれが、著者が小さい頃に抱いた素朴な疑問にたいする一つの答えなのである。最後は、ペルム紀に起こった地球史上最大規模の絶滅の理由を「(超大陸形成に伴う)地球規模の生物の混合と地球温暖化が重なったため」と考察している。

    間にカリブーの足が凍傷にならない理由や、体温に45度になるほどの熱をためても脳を茹で豆腐にせずにしないオリックスのシステムなどのトピックスを紹介し、読者を飽きさせない。

    何よりも、生物の代謝システムを考えるという行為が、地球に生きる動物たちの謎をこれほどまでに深みのある魅力的なものとして見せることができるのだということを示してくれた点が嬉しい。是非読んでもらいたい科学書の一つである。


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  • ヒートアイランド
    (尾島俊雄(おじま・としお) 著 東洋経済新報社 1500円 ISBN 4-492-80070-0)
  • 夏が来れば思い出す、というかイヤでも思い出さざるを得ないのが東京のヒートアイランド現象だ。本書は、25年前(1975)に『熱くなる大都市』でヒートアイランド現象を警告した著者が、事実としてヒートアイランド化してしまった現状をまとめて報告し、今後の対策を訴える本である。

    本書で引用されている各種データが圧倒的である。東京在住者なら一度は目を通しておいて損はない。僕は池袋が東京のヒートアイランドの頂点になっていることを知ってびっくりだった。暑いなあとは思っていたけど、まさか一番暑いとは。ちなみにあと暑いのは、やはり新宿と大手町周辺である。皇居は東京のクールアイランドになっている。


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  • 脳を知る・創る・守る 4
    (脳の世紀」推進会議 編 日高敏隆、御子柴克彦、酒田英夫、深井朋樹、市川道教、水野美邦、西川徹 著 クバプロ 1500円 ISBN 4-87805-010-1)
  • そのうち。

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