彼らがどのようなテクニックを使ったのか、そのテクニックを選んだ理由は何か、そこに至るまでには、どういう人たちのどんな研究の歴史があったのか。クローン誕生への途上にあったいくつものセレンディピティ(思いがけない幸運)と偶然、基本に立ち返った思考と実験の繰り返し。それらが全て描かれている。
派手さこそないが、歴史的な事件の裏側を科学と技術の側面から描いた本であり、研究とはどういうものかを見事なまでに描き出した本でもある。歴史に残る名著の一つとなることは疑いない。訳出されるのが遅れたのがかえすがえすも残念。
NHKでオンエアされた「人間講座」のテキストをベースにしているだけに「講座」として良くまとまっている。よく出来た教養講座を聴くような感じでさらさらと読める。特にロボティクス誕生の章は、ロボットの技術的背景に少しでも興味がある人なら一度目を通しておいて損はない。また、巨大ロボットの操縦席の概念と同じ「スーパーバイザリ・コントロール」の話や、義手や人工感覚の話にもかなりの紙幅が割かれているので、その辺のSF的技術に興味がある人にもお買い得感があると思う。著者らが提唱するアールキューブ(リアルタイム・リモート・ロボティクス=実時間遠隔制御ロボット技術)の話だけはやや他に比べて分量が多すぎるように思うが、それは仕方あるまい。
産業用ロボットは一九八〇年代に普及段階に達した。だが現在では市場が頭打ちになっている。そのため、新たな市場としてヒト型ロボットをはじめとした家庭用、エンタテイメント市場が期待されている。今後は本書で言うところの「歩く動作と作業の動作を組み合わせる複合の身体運動」を動力源を自分で背負った自立型ロボットで、如何に実現させていくかが課題となる。それができるようになって初めて、ロボットは人間をサポートし、人間の分身となることができるだろう。
(以上、初出SFマガジン)
なお、二足歩行の歴史に関しては異議があるというメールを頂戴している。重版するときには改訂してもらいたい。