02年1月Science Book Review


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  • 歴史を変えた気候大変動
    (ブライアン・フェイガン(Brian Fagan) 著 東郷えりか・桃井緑美子 訳 河出書房新社 2400円 ISBN 4-309-25154-4 原題:The Little Ice Age, 2000)
  • 非常に要領よくまとまっているので、<訳者あとがき>から引用する。
    本書の原題でもある「The Little Ice Age」すなわち「小氷河時代」は、一三〇〇年ごろから一八五〇年ごろまでの五世紀あまりに、気温が短期的にめまぐるしく変動した時代を指す。この用語は一般には「小氷期」と訳されているようだが、この間ずっと低温の「氷期」がつづいたわけではなく、むしろ氷河時代のように氷期と間氷期が繰り返された。著者は気候の変動の要因として考えられるいくつかの説−−北大西洋振動(NAO)、海洋大循環(ブロッカーのコンベヤー・ベルト)、太陽活動(黒点、コロナホール、日射)を紹介しながら、予測のできない気まぐれな天候に人間がいかに翻弄され、またそれがいかに歴史上の事件にも影響をおよぼしたかを、さまざまなエピソードをまじえて論じている。
    (中略)
    しかし、著者はいわゆる環境決定論を慎重に遠ざけている。荒天による食糧不足がフランス革命を引き起こしたとか、一八四〇年代のアイルランドのジャガイモ飢饉の最大の原因になったとはけっして言うことはできない。だが、これまで歴史と気候の関係を深く結びつけて論じた学者は数少なかった。本書での著者の意図は、気候の好悪は歴史や社会に変化を引き起こす圧力の要因のひとつであり、その重要性を見落としてはならないと警告することにある。
    だいたいこのとおり。歴史と気候を結びつけて論じた学者はいることはいるが、実際、歴史を考えるときに、気候変動という強力なドライビングフォースをどの程度重視するかは、難しい話だ。今後もどの程度気候の寄与が重視されるべきかについては、意見の一致を見ることはないだろう。だが、決して無視はできないはずである。だが今日の歴史観では、小氷期の影響はあまりに軽視されているように思われる。本書で詳細に描写される過去の大飢饉の惨状とその記憶は受け継いでいかなければならない。本書は主にヨーロッパを舞台にした話だが、日本でも小氷期の時には戦国・江戸時代で飢饉と戦乱の数々が起きていた。

    当時の模様は、絵画に描かれている。街の風景、人々の衣装、家のなかの様子、空に浮かぶ雲の姿。そう遠くない過去、世界は今よりずっと寒かったのだ。

    地球の気候がどのように変化するのか、未だ分からない現在、過去の記録を見るより他はない。気候変動は我々が日常イメージするよりも急激に起きることが明らかになりつつある。人間、文明は、気候の前ではあまりに脆弱である。環境に影響を及ぼすようになった今でも、それは変わりない。気候の振る舞いは未解明であり、太陽の日射、火山の噴火を食い止められるわけではないのだから。


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