99年7月SF & Horror Book Review



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  • 偏執の芳香
    (牧野修 アスペクト 1800円)
  • 嗅覚を素材にした異色ホラー。牧野修ワールド全開で、楽しませてもらった。ただ、最後の最後のあれはお約束とはいえ、あってもなくてもよかったかな。あと、普通の生活とか、ごくふつうの日常とかは、この人あまりうまくならないな。それ以外は、僕としては文句ないです。こういうタイプのホラーが書ける人って他にはいないでしょう。

    物語は82年のパリ、キャロと名乗るパヒューマー・伊能宿禰が女性を惨殺するシーンから始まる。舞台は一転、現代の日本へ。ライター・八辻由紀子はオカルト雑誌の編集者・久子と、取材で超常現象研究家・瀬野邦生、そしてUFOと接触したという人間・コンタクティーと会うことになった。その時から彼女の周囲の世界は悪夢へと変わってしまった。

    という話。嗅覚によって狂った世界と狂った人々が、著者独特の粘つくような文体と独特の言葉ワールドで描かれる。これがたまらなくやみつきになるんだよなあ。

    話はやがて、『MOUSE マウス』的な話へと続いていく。単品でみればこれはこれで結構なのだが、ちょっとパターンかなあ。やや残念だったが、この「イカレかた」は他者の追随を許さないので、まあいいか。


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  • リメイク
    (コニー・ウィリス 大森望訳 早川書房 580円)
  • トムが出会った少女アリスは、ミュージカル映画で踊りたいと願っていた。だが現在のハリウッドでは役者はCG、話はリメイクや続編ばかり。到底かなわぬ夢だった。だがある日。トムはアリスを1950年代の映画の中で見た。CGによる顔の張り付けか? いやそれも不可能なはず。なぜ、どうして。

    近未来のハリウッドでの「boy meets girl」な話。長編だけど、どっちかっていうとちょっと長い中編。話には特にひねりも何もなくて、まっすぐ進んでいく。ああ、いいはなしですねー、とは思うけども、それ以上ではない。まあいいんだけどね、こういうのもたまには。さくさく読めるし。ちょっといい話、て奴だな。
    映画が好きな人のための小説、かも。


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  • 人類の子供たち
    (P・D・ジェイムズ 青木久恵訳 早川書房 740円)
  • なんでこれがミステリから出ちゃうのかなあ。なぜか子供が産まれなくなってから四半世紀。主人公は民主主義のふりをして独裁を強いるイングランド国守・ザンの、いとこ・セオ。セオは昔、過失によって自分の子供を車でひき殺して以来、失意の日々を送っていたが、それは彼だけではなかった。世界中が未来に全く希望を持てず、ただただ滅びの日を待っていた。最後に生まれた子ども達はオメガと呼ばれ、略奪などを繰り返した甘えん坊のクソ餓鬼と化し、流刑が復活し、さらには老人達を「生命の解放」と称して強制自殺させられていた。

    そんなある日。セオは反体制組織の女性から接触を図られる。反逆を起こす前に、国守に対して最後の忠告をしてはくれないかという。しぶしぶながら引き受けるセオだったが、ザンをはじめ評議会のメンバーは聞く耳を持たなかった。そしてセオは反体制派組織のメンバーと逃げることになるが、彼らにはもう一つ重大な秘密があった。

    とまあこんな話。子供が産まれなくなって云々、という設定がまたはやり始めているのだろうか? 最初は『渚にて』みたいに静かに滅びを描いていくのかとおもいきや、そういうふうには展開しなかった。まあ、だいたい分かるでしょうけれども。エンターテイメントとしてはまあまあだから、まあいいんじゃないでしょうか。それ以上ではないけど。


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  • 死の影
    (倉阪鬼一郎 廣済堂文庫 552円)
  • <異形招待席>なる新シリーズの第一巻。まったりとしたホラーというべきか、なんとも味のある短編をものす倉阪鬼一郎の長編ということで期待して読んだのだが…。
    これって、確信犯だよね? でなかったらきつすぎるよ。

    というわけで僕は、死んだ妻の作品を盗作した作家を皮切りに、あやしい宗教団体やら殺人鬼やら呪われたマンションやらが一緒になって出てくるこの本を、「確信犯的C級ホラー」だと思って読んだのだが、どうなんでしょ。ネタ的には何も驚けるところもないし、もちろん怖くもない。もしそのまま映画化されたら、きっと大笑いしながら見ちゃうと思う。そんな本だ。
    だから、そういうホラービデオを楽しめる人間だけが読む本ですね、これは。ぱっぱっぱと読めちゃうから損したとは思わないけど、ちょっとがっかりしたのは確か。


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  • 仮想空間計画
    (ジェイムズ・P・ホーガン 大島豊 創元SF文庫 920円)
  • いま改めて邦題をみなおすと、むちゃくちゃ直球なタイトルなんだなあ。もうちょっとかっこいいタイトルを希望したいところ。
    さて本書は、ホーガン流の「おい、ここから出してくれ」ものである。ホーガンはどうも、初期に自分が書いた作品の中で、さらっとごまかして書いてしまった技術を一つ一つ解説していく作戦に出ているように思える。だってこれは例の「星を継ぐもの」3部作の中に出てくるVR、あるいは『未来の二つの顔』の冒頭に出てきたHESPERだったっけ?あれの拡張版そのままなんだもん。

    さて内容だが、お気に沿わなかった方もいるようだけど僕はけっこう楽しめた(ホーガン偏愛者だし)。ただ、途中の場面転換は確かにあまりに急だし、これだけの分量はいらないかな、という気もする。でもラストもいかにも(昔の!)ホーガンだし、ファンとしては許したいところ。


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