99年5月SF & Horror Book Review



CONTENTS



  • 時間怪談
    (井上雅彦監修 廣済堂文庫、762円)
  • 異形コレクションシリーズ第10巻。まさか10巻まで続くとはねー。このこと自体は大したものだと思う、本当に。

    今回のテーマは時間。そのあとに「怪談」と続いているように、怪談チックなゴーストストーリーもいくつか収録されている。こういうのが良いなあ。というわけで今回の評価は、まあまあ、というところで。例によってできはバラバラで、時間というテーマをうまく料理している作品もあれば、不可欠な要素として鮮やかに取り込んでいるものもある。でも妙に説明くさいものもある。これはもう仕方ないのかも、と思うようになった。

    僕個人としては、なんかリアルに想像できてしまった小中千昭『0.03フレームの女』が妙に印象に残った。そのままTVの脚本になりそうな、ありがちと言えばありがちな話なんだけど。

    さて、本書にはいくつか鉄道怪談が収録されており、編者も繰り返し「鉄道沿線は時間怪談のメッカだ」と言っている。確かにその通りだと思う。鉄道──一直線に、一次元の広がりしか持たない道を見て、時間を連想しない人がいるだろうか。あまりいないのではないか。ただ、そこに見るのが未来への希望か過去への回顧かは、まさに人それぞれだろうが。
    どこまでも続く道を見た人は誰しも「時」に思いを馳せる。そういう意味では本書に収められていた作品はやや平凡で、できればもう一ひねり二ひねり欲しかった。まあ幻想小説の場合はプロットなどはあまり問題ではなく、その語り口のほうが質の大部分を占めることも多いわけだが、そう断言できるだけの語り口を持った作家がいまいるかというと、これはちょっと微妙なところ。曖昧な言い方をしているのは別に逃げているわけではない。時として傑作が出てくることもあるわけだから、ということだ。

    しかし牧野修って、「何か」が「追いかけてくる」っていう話が好きだね。今回収録されている『おもひで女』も追いかけてくる話である。しかも追いかけてくる「何か」っていうのはもやもやした感覚とかではなく、実際に具象化した、この世のものならぬクライブ・バーカー的あるいは韮沢靖的な怪物だったりするところも、この人の傾向であるようだ。恐怖やおぞましさといった抽象を言語に絶する怪物という形で具象化してみせるこの手法、これはこれで僕の嗜好にはまっていて良い感じなのだけど、ややパターンかな、という気がしなくもない。この路線を突っ走ってほしいなあと思う一方、パターンを破ってほしいな、という気もする。

    あー、あと一つ余談。こういう類の幻想小説・怪奇小説を書く作家は、言葉遣いに気を配って欲しい。別にやたら難しい漢字を使えと言っているのではない。たとえば「こんにちは」を「こんにちわ」とやるのを(幻想怪奇小説を書く作家くらいは)やめてくれ、ということだ。こんな間違いが出てくると、雰囲気にひたって読む気には到底なれない。編集者にも責任があると思う。ちゃんとチェックするように。気にならないのかなあ?


    CONTENTS | HomePage | Give me Your Opinion

  • スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス
    (テリー・ブルックス著 ジョージ・ルーカス原作 富永和子訳 ソニーマガジンズ)
  • 日記にも書いたとおり、映画の前に読みたくはなかったが、読んでしまったので感想を書く。
    いやー、早く映画見たい、見せてくれー、という一言に尽きますな、これは(笑)。久しぶりに、埃を被っていたサントラCDを引っぱり出して聞いちゃったよ。スター・ウォーズに限っては、たぶん期待は裏切られないでしょう。

    読みながら改めて思い知ったのが、<スター・ウォーズ>が如何にボクの記憶の中に残っているか、ということだった。読むたびに、1シーン1シーンが浮かんでくるのである。
    そして今回、我々は、登場人物たちの将来を知っている。ある意味、神の視点で過去を振り返り、覗き見ているわけだ。ただし、過去は変えられない。そんな気持ちが味わえる。主人公アナキン・スカイウォーカー(=ダース・ベーダー)は、9歳の少年として登場する。今後彼がどういう運命をたどるのか。その始まりはすべてここにある。オビの文句どおり、「すべてはここから始まる」のだ。

    ジョージ・ルーカスの世界観──ごく普通の、役立たずとされている人々が活躍する──も相変わらず健在だ。話は変わるが、全エピソード9つすべてに登場するのは、ドロイドのC3POと、R2D2だけだということである。つまりこの数世代に及ぶ<スター・ウォーズ・サーガ>を見つめ続けられるのは、ロボットだけなのである。ここら辺にも、ルーカスの時代観というか時間観というか、世界観が反映されていると思う。で、これはすごくSF的だなあとボクなんぞは思うのですが、いかがでしょうか。

    おっと、小説としてどうこう、ということも一応言っておかねば。おかしいところはいろいろあって(登場人物の気持ちの変動がオーバーに描写されていてかえっておかしかったり)、そこら辺がなんだかノベライズだなあと感じさせてくれるのだが、ページを繰りつつ思ったのはそういうことではない。「スペース・オペラ」、それもまっすぐなスペース・オペラも、まだまだイケルのではないか、ということである。もちろん本作品の場合、大幅に(頭の中でリアルに構成された)映像によってサポートされているわけだが…。

    なお本書の表紙パターンは3種類ある。それぞれアナキン、ダースモール、アミダラの顔がついているのだが、実は!ペーパーバック版にはもう一つ、オビ・ワン・バージョンもあるという。ま、僕は買わないけど、オビワンのを出さないのは間違っているような>ソニーマガジンズ。


    CONTENTS | HomePage | Give me Your Opinion

  • グッドラック 戦闘妖精・雪風
    (神林長平著 早川書房、1800円)
  • あらすじなどはリウイチさんのレビューなどを見てください。そういう話です。 15年前に星雲賞を取った『戦闘妖精・雪風』の続編。

    さて。
    そうですね、面白かった。けど、やっぱりラストがどうも、というところでしょうか。シーンそのものはかっこいいし、安全よりも安心を、っていうのには共感できるんだけど。僕が言っているのはもうちょっと大きな構成の話です。「やっぱり」というのは、実は(ほぼ)いつも神林作品に対して感じているところだから。

    というのがざっくりしたところ。でも神林長平が好きな人にはもう、堪能しまくれるのではないでしょうか。物語運びのうまさやドッグファイトの描写力、ソリッドな文体、世界の認知論っぽいところなどは健在。ラストシーン云々は、まあ好みの類。

    零や雪風に代表される、個を重視し、それのみの生存を考える存在──特殊戦とジャム。この設定にも僕はやや違和感を感じたのだが、やっぱり今後の物語を読んでみたい。

    おいそれだけかよという人は、本書発売直前にSFセミナーにて行われた公開インタビューの記録をこの辺から辿ってください。


    CONTENTS | HomePage | Give me Your Opinion

    moriyama@moriyama.com